大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成元年(ラ)456号 決定

抗告人 具志堅アイ子

小甲泰則

右両名代理人弁護士 若月隆明

相手方 利川こと 徐洪基

主文

原決定をいずれも取り消す。

抗告人らに対する相手方の本件申立てをいずれも却下する。

手続費用は第一、二審とも相手方の負担とする。

理由

一  抗告人ら代理人は、主文第一、二項と同旨の裁判を求め、その理由として、別紙「執行抗告の理由書」記載のとおり主張した。

二  当裁判所の判断

本件記録によると、次の事実を認めることができる。

(1)債権者日和信用組合(昭和六三年四月一日日本信販信用組合に合併)は、債務者兼所有者株式会社財建との間で、原決定別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という)外一戸の建物について、昭和五四年三月三〇日設定契約、同年四月二日その旨登記がなされた根抵当権に基づき、昭和六三年三月二九日原裁判所に対し不動産競売の申立てをしたので(原裁判所昭和六三年(ケ)第六三号)、原裁判所は同月三〇日不動産競売開始決定をし、同月三一日差押えの登記がなされ、所定の手続を履践したうえ、入札価額二〇〇〇万八〇〇〇円で最高価買受申出人となつた相手方に対し、平成元年三月三〇日売却許可決定を言い渡した。 (2)抗告人小甲は債務者兼所有者の代表者である並川清見に対し、当時金二〇〇〇万円以上の債権を有していたので、その債権回収のため、昭和五四年六月二二日債務者兼所有者から本件建物を、期間五年、賃料一か月金二万円、譲渡転貸ができるとの約定の下に賃借し、その引渡しを受け、同所でスナツク「海」を経営していたが、妻が死亡しその営業ができなくなつたため、昭和六二年一〇月三〇日抗告人具志堅に対し本件建物を、期間三年、賃料一か月金一二万円で転貸し、また同所の営業設備を使用させている。抗告人具志堅は同年一一月末日頃以降同所でスナツク喫茶「海」を経営している。 (3)原裁判所は右事実を、執行官林進作成の現況調査報告書で把握しながら、平成元年二月八日作成の物件明細書では、抗告人小甲の賃借権は債権回収を目的とするもので、引受けにならないものとして評価した、と記載した。

右認定事実によると、抗告人小甲の賃借権は債権者の本件根抵当権設定登記に遅れるから、買受人である相手方に対抗できないとはいえ、抗告人小甲の賃借権及び抗告人具志堅の転借権は、現実に本件建物を占有して使用収益をなすためのもので、単なる執行妨害のために合意されたということはできず、また抗告人小甲の賃借権は債務者兼所有者との間で、その後法定更新がなされてきたものと解されるから、抗告人小甲の賃借権及び抗告人具志堅の転借権は、債務者兼所有者との関係では、適法な占有権原となりうるものというべきであり、物件明細書に前記のような記載がなされているからといつて、右判断が左右されるものではない。したがつて、抗告人らはいずれも、民事執行法八三条一項本文に定める引渡命令の相手方に該当しないものというべきである。

そうすると、右と異なる原決定は、いずれも不当であるから、これを取り消して、相手方の本件申立てをいずれも却下する

(裁判長裁判官 枇杷田泰助 裁判官 喜多村治雄 松津節子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例